経営者の人材に関する悩み

ここでは、日ごろ接触している中小企業経営者から聞く、人材に纏わる「悩み」「問題」を整理してみた。その上で、それぞれの「悩み」や「問題」が”どうして起こり””何故解決できないのか?”という視点で原因を大まかにまとめた。

人材の募集活動
に関する悩み、
問題等

・社員募集しても応募者が無い(そもそも応募者が無い)
・求める人材が応募してこない(応募者はあるものの採用に至らない)
・採用の辞退(採用しても辞退されてしまう)
・面接日時を無断でキャンセル(連絡なしのドタキャン)
・求人活動の対費用効果が低い(費用を掛けても成果が上がらない)
採用直後の悩み、
問題等
・採用したが短期間(3ヶ月くらい)に辞める
・人選のミス(採用したことへの後悔)
・仕事への意欲が感じられない
・仕事への積極的な取組みが見られない(指示待ち)
・仕事に関する技能、知識の修得意欲、探究心、向上心が見られない
・社会的スキル、常識の欠如(挨拶ができない、無断欠勤、言葉使い)
・コミュニケーション能力の欠如(報連相ができない等)
・社内外の人間関係を作るのが下手
育成、自立期に
関する悩み、
問題等
・従業員の入れ替わりが激しい(従業員の平均勤続年数が概ね3年以下)
・自己の成長意欲が感じられない
・リーダーシップを発揮しない
・率先垂範(後輩の手本となるような行動が見られない)
・問題意識、問題解決への意欲が無い
・気が利かない・積極性がない・責任感がない
・継続性、持続力が乏しい
・嫌な事、辛い事から逃避する
精神面、パーソナリティーに
関する悩み、問題等
・忍耐力が無い(我慢する事を知らない)
・打たれ弱い(叱ると落ち込む)
・経験学習能力が低い(同じ間違いを繰り返す)
・物覚えが悪い(同じ事を何度も教える)
・何を考えているか分らない
・何をしたいのか理解できない(目的、目標が不明瞭)
・我が侭、自己中心
・周囲への配慮の欠如

こうした中小企業での人材に関わる『悩み』や『問題』の原因は何処にあるのか?何故『悩み』や『問題』が解決しないのか?を考えると次の様な答えになる。中小企業では「募集する」「選考する」「教える」「育てる」「定着させる」の5っのステップにおける問題を深く掘り下げて考える事も無く、何ら手立ても講じていない処に大きな原因がある。以下にそれぞれの原因を整理してみた。

中小企業の多くは、ハローワークへ求人票を掲載して、求職者からの応募を「ひたすらに待つ」方法を選ぶ。余裕(予算)のある会社は、民間の求人募集媒体を安易に利用(高い費用を掛け)して募集を行っている。
こうした中小企業の求人は情報(中身)が薄く、求職者にとって魅力が無いものが多い。これは、経営者に「応募したくなる求人票を作ろう」と云う意識が極めて低いことが多い。また、求職者の心を掴むような「企業の魅力」を訴えようとする考えが欠けている場合が多い。求職者における『企業選びの4っの視点』を全く理解していないか、意図的に無視しているような求人情報になっている。結果、求職者に「応募しよう!」という気持ちを『モチベート』『喚起』できない。そもそも、企業側に「人材を獲得しよう!」とする努力を放棄してしまっているのだから、人材不足に陥るのは必然である。参考までに『企業選びの4っの視点』について簡単に紹介しておきたい。

□Philosophy(理念)
企業において大切にしている価値観や活動理念、将来ビジョンなどが明確である。共感、支持できるものが示されている。
□Profession(職業)
企業が行っている事業内容、ビジネス、具体的な仕事内容に魅力を感じる。仕事を通じて「達成感」や「やり甲斐」が得られることへの期待感。
□People(人)
企業の内部いる構成員が魅力的である。自身が成長できる尊敬できる先輩、同僚が存在する。
□Privilege(特権)
その企業に属することで得られる「特別な権益」に対して魅力を感じる。特定の組織に属することにステータスを感じる。安定した生活、ライフスタイルへのサポートが得られる。

『企業選びの4っのP』については、詳しく解説されているサイトの閲覧をお勧めします。お薦めサイト

人材が短期間(概ね3ヶ月〜6ヶ月以内)に退職した場合、中小企業経営者は「全ての原因は労働者側に有る」と捉えている。具体的には、辞めた従業者は「忍耐力の無い人間」「根性の無い人間」「やる気の無い人間」「不真面目な人間」等と決めつけている。そして「どうせ、すぐ辞めると思っていた」「最近の人間はだいたいこんな人間が多い」「辞めてもらってホッとした」等と口にする。
当初、そうした経営者の意見に共感していた私ですが、よくよく情況を考察すると「労働者側の問題」だけでは無いことが見えてきます。私の見る限り中小企業には、従業員のワークモチベーションを減退させたり奪ってしまう環境が数多く存在していると言わざるを得ない。具体的には、次の様な支援環境が不足している事が上げられる。

□業務における適切な教示と説明の機会
入社間もない従業員に対して、業務上の教示や説明が適切に行われる環境、機会が少ない。業務マニュアル等が整備されているなどということは望むべきも無い。それ以上に、指導的立場にある経営者やスタッフの指導能力やコミュニケーション能力(インストラクション能力)に大きな欠陥がある事も入社直後問題を大きくしている要因である。
□情緒面、精神面を支える環境
中小企業の場合、入社間もない従業員には「同期」「同僚」が存在しない。ストレスを発散したり、精神的なダメージを癒してくれる環境や機会は社内には極めて少ない。他の従業員は、経営者の忠実なブレーンであり諜報員であることが多い。安心して「愚痴」を口にする事はできないのである。
□企業内外での訓練の環境
中小企業では、社内に従業員のための業務訓練を行う環境がほとんど整っていない。オン・ザ・ジョブ(見て、聞いて、真似る)形式で、個人の学習能力に依存している。「見て、聞いて、真似る」が、入社間もない従業員に求められる最も重要な能力である。また、費用を掛けた外部研修を受けられる機会も極めて少ない。
□適切なフィードバック環境
入社間もない従業員に対して「何が上手く出来ていて、何が駄目なのか?」「何を改善すべきか、どの様に改善すべきか?」が、具体的に伝えられる機会も環境も仕組みも無い。過ちを犯したときだけ、抽象的な表現で「何やってるんだ!」と叱責されるだけである。
□社会的責任の不履行環境
中小企業の場合「率先して法令を遵守しよう」(社会的責任を果たす)という意識が低い経営者も見受けられる。こと「労働基準法」については、遵守意識以前の問題で、法律を理解すらしていない事業主が多い。従業員の雇用保険、社会保険の未加入問題、超過勤務手当の未払い問題は、その事を象徴する具体例である。この事は、従業員の不満を増幅させ、ワークモチベーションを著しく減退させる。

中小企業経営者は、早期離職者を非難したり誹謗する前に、組織内に存在する「早期離職環境」をチェックし、改善し取り除くことに取り組むべきと考える。

入社から概ね1年から2年が経ち、日常業務(定型業務)について一通り覚え、ようやく「戦力(労力)」として認められるレベルに達すると、中小企業経営者達は従業員に対して次のような悩みを抱き始める。

「自分で考え判断し自主的に仕事に取り組んで欲しい!」
「段取り良く、てきぱきと仕事をして欲しい!」
「一度、教えた事は確実に覚えて欲しい!」
「もっと、臨機応変に状況に対処、対応して欲しい!」
「同じ失敗を繰り返さないで欲しい!」
「もっと技能や知識を積極的に修得し、仕事能力を高めて欲しい!」等々

中小企業経営者の従業員への要求は、実に広範囲かつ高次元であることが分る。こうした中小企業経営者の「要求」を端的に表現するならば「自分と同じ様に仕事の出来る人材になって欲しい!」という事になる。これは取りも直さず「自分の分身」を求めている事になる。こうした、中小企業経営者による従業員への「分身要求」は、経営者自身の「悩み」をより深い物にしているのではないだろうか。
この中小企業経営者の「分身要求」が、合理的かつ論理的な要求で在るか否かはともかく、この「分身要求」が満たされる可能性が極めて低い事は、当事者でない者には容易に理解できるのだが………。
さて、私なりに「育成期問題」の原因を分析(整理)すると次のように説明することができる。
経営者が従業員に求める成果(期待値)と従業者本人の「仕事能力」「成果」との間にギャップ(格差)が生じている状態。つまり「あるべき姿」(経営者の期待値)と「現状」(従業者の仕事成果)との差(問題)が生じているが、従業者が正しくその問題を認識し、改善しようとする姿勢、取組みが見られない状態への「中小企業経営者のジレンマ」との結論になる(私論)。
この結論を基にして、問題の解決を妨げている要因を考えてみると…….
「気付かない従業員が問題なのか?」
「気付かせられない中小企業経営者が問題なのか?」
「気付いているが、改善しようとしない従業員が問題なのか?」
「従業員の改善への動機付けができない中小企業経営者が問題なのか?」
何れにしても「問題のある従業員を採用したのは誰なのか?」という中小企業経営の責任は、中小企業経営自信が負う事になるのだが、先ずは「気付かせ」そして「改善の行動をとらせる」仕組みづくりが必要である。

或る日、突然「晴天の霹靂」とも言うべき不幸が中小企業経営者を襲う。概ね3〜5年を掛けて育成し、やっと利益をもたらすようになった人材が突然「辞める」と申し出る。事業主が、どの様に熱心に慰留したとしても、彼らは、ほとんど思い留まることはない。残念な事に、定着期の社員が突然「辞める」事件は、中小企業に取って特別な出来事ではない。ある一定の周期で起こる事件なのである。この問題の「本質的な原因」は、企業側にあると言わざるを得ない。それは、次のような理由からである。

□ 従業員のワークモチベーションを持続させる環境が作れなかった。
□ 従業員にとって企業、職場、仕事への魅力を醸成し維持させることができなかった。
□ 従業員の個人的な欲求や願望と企業の事業目的(ビジョン)とを結び付ける事ができなかった。

定着期の社員が退職した時、中小企業経営者たちは感情的捉え方をする事が多い。つまり「裏切り」「恩知らず」「愚かな決断」となってしまう。従って「社員が去る本当の理由」を永遠に知る事はできないのである。
こうした従業者の心情を、中小企業経営者が理解するヒントとなるものに「フィット理論」がある。以下、その内容を簡単に紹介する。

・仕事を遂行する上で求められる要件と個人の遂行能力とのフィット感
・個人が持っている欲求と仕事がその欲求を満たしてくれる機会とのフィット感
・個人が重視する価値と組織が重視する価値とのフィット感
・個人と組織の間で、各々に足りない部分をどれくい補えあえるかのフィット感

人(従業員)は、基本的に報酬を得るために働いてはいるが、報酬を得るためだけに働いている訳ではない。
中企業経営者は、従業員の個人的な「欲求や願望」を理解し、会社の仕事において彼らの「欲求や願望」が実現できるような環境づくりが必要になる。

 

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